甲斐バンドの唄で、度肝を抜かれた。
それは、何百回、何千回もだ。
らせん階段という、唄を聴いた時、
どこまでも、どこまでも、
走り抜ける事が出来そうで、
真夜中に、居ても立ってもいられなくなり、何度となく、夜の町を徘徊した。
何の目的もなく、
ただ、気がついたら、そうしていた。
馬鹿らしいと、思われるかもしれないが、
蒼くさい青年期への移り変わりに、
胸の奥はいつも、くすぐったかたものだ。
何かが少し足りなくて、
何かがちょっと寂しくて、
さんざめく街の底から、
『人生なんてそんな風に 悪い旅じやないはず』
と、語りかける甲斐よしひろの唄声に、
未だ、この瞬間だけは、一緒に口ずさめない。
そう、泣きそうになるからだ。